科学と科学を装うプロパガンダの違い

※3/10 一部修正しました。


科学の世界には査読(ピアレビュー)という制度があります。論文を学術雑誌に投稿して掲載する際に、同じ分野のほかの研究者に評価やコメントをもらい、その結果に応じて論文の修正を求められたり、掲載する/しないが決定される制度です。この制度によって、論文の明らかな間違いをチェックしたり、どうしようもないゴミ論文があふれかえるのを防ぎ、一定の品質を保っています*1。科学の世界では、最も重きを置かれるのは査読を経た論文です。学会発表しただけとか、査読の無い雑誌等に掲載されただけとかは重要視されません。特許を取っただけとか、ニュースで報道されただけとか、どこかのプレスリリースだけっていうのはもっと下であって、通常相手にされません。
一般の人には、あるいは専門家以外には、あるものが科学か、科学っぽいけれど別ものか、区別がつきにくいと思います。考えるためのひとつの基準は、それは査読の経たものかどうか、あるいは査読を経たものをもとにしているかどうかです。もちろん査読を経た論文だからといって全て信用していいわけではありませんが、検討の必要があるか無いかを判断する一次フィルターにはなりえます。一般の人には、査読を通ったものも単なるプレスリリースも、一緒に見えてるんじゃないかと危惧しています。これらは、科学の手続きから言えば、とても同一視できるものではありません。中には論文を出さずに世間向けの宣伝をさかんに繰り返す方もいますが、これらは科学の手続きに沿っておらず、単に金儲けか政治目的のプロパガンダも多いと考えます。いくつか例を示します。

水からの伝言

本が出てるだけで、論文出ていないので、科学のテーブルにのってさえいません。学会発表がなされてますが、学会発表は特に審査などありません。
論文出てないと思ってたら出てました。どんなものでも載せるジャーナルはあるものですね。学会の圧力があるから論文が載らない、なんてことは起こりえない例じゃないでしょうか。査読のある雑誌みたいなので、一次フィルターは通過してます。

経皮毒

論文も元になる論文の記述もありません。たとえば、経皮毒によって婦人病になったなどの論文があるわけではありません。しかし宣伝には熱心なようです。

ブラジャーの着用で乳がんリスクが増大

これも発表してから10年経つのに全く論文出ていないようです。

ダイオキシン内部負荷量計算に基づく耐容1日摂取量の新しい考えかたの提案

ダイオキシン環境ホルモン対策会議のニュースレターです。ダイオキシンの摂取量の考え方として、1細胞1分子以下にすればいいんじゃないか、わかりやすいから。という提案ですが、単なる政治団体のニュースレターで、内容的にもとても科学ではありません。1日あたり、1細胞1分子という根拠はわかりやすいというそれ以外に全くありません。わかりやすさで、摂取量の基準が決めることが可能だったら毒性学なんていりませんよね。これは科学ではなく科学っぽい何かですが、科学に弱い人はこれを科学的と思ってしまうのではないかと思います。

ヘアカラーは環境ホルモン

「食品と暮らしの安全」という団体が出したリーフレットによるものです。週刊現代にもこれをもとにした記事が掲載されました。発行は2002年ですが、プレスリリースや会報には載るのに論文としては出されていません。論文になっておらず、実験の詳細な条件などさっぱりわからないので、検討のしようもありません。だから相手にされてませんよね。本当にヘアカラーが危険ならさっさと論文を書いて必要な対策を国などに訴えるべきだし、危険がなければ危険がなかったという論文を書くべきです。単に言いっ放しで終わってます。団体にとってはいい宣伝になったでしょう。これは科学ではなくて科学を装ったプロパガンダです。
ちなみに実験を行ったのは、化学物質過敏症関係の文献でもよく見る北里研究所病院臨床環境医学センター(当時)の坂部貢さんということです。何故論文書かないのか。


いくらでもあげれそうですがこのへんで。
マスコミもそうですが一般消費者も、科学と、科学を装うプロパガンダの違いに対してもっと敏感になるべきです。

*1:それでもどうしようもないものが紛れてくることがありますが、査読がないよりはましです