シャンプーの成分を見て安全とか危険とかほとんど意味無い

シャンプーや化粧品の全成分を表示を見て、どの成分は安全だとかどの成分が危険だとか、そんなこと書いてるブログやサイトや本がたくさんありますよね。でも、ほとんど意味はありません。
だって、彼らは量的概念がすっかり欠落しているから。パラケルススが言ったように「毒かどうかは用量による」のですが、彼らは用量を考慮していません。

そこで、ここではシャンプーを例にどのように量的評価が行われているかを説明してみます。


まず、全身毒性(systemic toxicity)ですが、欧州で安全性の評価を行っている科学委員会が採用している数値を採用します。消費者製品の科学委員会によれば、シャンプーの場合、一日使用量は8g、また、リテンションファクター(残留ファクター)は0.01とされているので、80mgが残留することになります*1。ここで、成分Aがシャンプー中に1%含まれているとすると、成分Aは800μgが残留していることになります。経皮吸収率等のデータがあればそれを用いますが、ない場合は100%として、最大800μgが体内に吸収されると考えます。体重50kgのヒトの場合は、16μg/kgの体内負荷量となります。
この体内負荷量と、動物実験等から求めたNOAEL(最大無毒性量)と比較し、安全係数を考慮してたとえば100倍以上であれば安全だと見なすわけです。この場合だと、安全係数を100とすると、NOAELが1.6mg/kg以上であれば安全とみなせます。この値は非常に小さく、少なくとも、毒物とされる成分がシャンプーに1%以上含まれていない限り、考慮に入りません。ちなみに経皮では、LD50が200mg/Kg以下がおおむね毒物に指定されることになっているので大きな差がありますね。
経皮毒という用語を作って、界面活性剤は経皮吸収が増加するから危険といってる人たちもいますが、100%吸収するとしても微小な量なのでほとんど懸念にはなりません。


次は局所毒性(local toxicity)ですが、これは皮膚刺激と皮膚感作性(アレルギー性接触皮膚炎)を考慮しないといけません。皮膚刺激に関しては、細胞毒性試験などのスクリーニング試験もありますが、最終的にはヒト臨床試験で安全性が確認されます。シャンプーであれば、実使用時には1/100以下に希釈されており、しかも短時間の接触になります。
アレルギーの懸念があるからこの成分は危険、という人もそれなりにいます。彼らはもしかしたら誤解しているかもしれませんが、アレルギー性接触皮膚炎も、「毒かどうかは用量による」のです。アレルギー性接触皮膚炎も、用量反応曲線が作成できるのです*2。それゆえに、ある濃度以下であれば安全に使用できるという濃度が決定できるのです。実際には、ヒトのデータ、もしくは動物実験から「皮膚の単位面積あたりの用量」を算出し、必要ならば安全係数をかけて評価します。たとえば香料に関しては、IFRA(International Fragrance Association)が基準を作成しており、単位面積あたりの用量を基準としてこの濃度以下であれば安全に使用できるという基準を定めています。また、防腐剤も皮膚感作性を有していることが多いのですが、日本においてはポジティブリストによって皮膚感作を生じないように濃度が設定されています。
ちなみに、シャンプーにおける一般消費者のアレルギー性接触皮膚炎は、極めてまれで症例報告も数えるほどしかありません。低濃度かつ短時間の接触なので、頻度が低いのです。


量的概念が欠落している「ある成分は危険である」、といった言説は意味がありません。

追記:毒物云々はさっぱり意味が無かったので削除しました。急性毒性と比較することに意味がないので・・。