遺伝毒性

前回の続きです。Wikipediaの「変異原」がつっこみどころ満載なので書いておく。本当のことを言うとWikipediaは用語が無茶苦茶なので何を言っているのかほとんど理解できないんだ。

つまり変異原性を原因とする遺伝形質の変化(発がん、催奇形性)は毒性としてとして認識されれば遺伝毒性と呼ばれる。また、変異原性を原因とする形質の変化が生殖機能に影響する場合や次世代の形質転換に及ぶ場合は生殖毒性と呼ばれる。

呼ばないから。発がんが起こらなくても遺伝毒性は確認できるから。DNAアダクトの検出やコメットアッセイなどでDNA断片化の検出を行えばいいし、末梢血中リンパ球の染色体異常の頻度を測定することなどでも遺伝毒性は検出できる。いくらでも測定方法あるぞ。
また、生殖毒性とは基本関係無いです。たとえば、ダイオキシンサリドマイドフタル酸エステルは催奇形性・生殖毒性で知られてますが遺伝毒性はありませんね。生殖毒性の原因は多岐にわたるので、そのうちの原因として遺伝毒性が関わるということはあります。しかし、生殖毒性と遺伝毒性に何らかの相関が見られるわけではなく、関係無いことが大多数です。催奇形性についても同様です。

変異原性の存在は常に発がん性を始めとした遺伝毒性を有することを意味せず、遺伝毒性を判定するには発がん性を始めとした遺伝毒性試験(遺伝子突然変異試験と染色体突然変異試験)が必要である[3]。すなわち、変異原性試験はプロセスが簡便なため、遺伝毒性試験の前スクリーニング(絞り込みスクリーニング)として実施されるため一連の遺伝毒性試験に含まれる場合がある。しかし変異原性試験の結果のみでは遺伝毒性試験の代用にはならない。

まず、発がん性試験は遺伝毒性試験ではないですね。関連性は深いですが、別の概念でエンドポイントが全然違うし、遺伝毒性があるが発がんしないもの、遺伝毒性があるが発がんがおこるものなどがあります。たとえばダイオキシンは、遺伝毒性が認められない発がん物質ですね。
また、変異原性試験はプロセスが簡便というわけではありません。GHS分類の生殖細胞変異原性の分類では、参照する試験としてげっ歯類を用いる優性致死試験、マウスを用いる相互転座試験などがあげられてますが、これらは別に簡便じゃないですよ。
遺伝毒性試験は、ヒトでの遺伝毒性を生じる物質を検出することを目的として、種々のものが開発されています。文献によれば100以上あるらしいです。遺伝毒性は単一の試験系では十分に評価できないため、複数の試験を組み合わせて評価する戦略が必要になってきます。医薬品や農薬等の申請ではガイドラインを設けて、そのガイドラインに沿った複数の試験が必要とされます。


Wikipediaの試験法の分類も無茶苦茶で、形質転換試験は遺伝毒性試験じゃねーよとか、姉妹染色分体交換は染色体異常じゃねーよとかいろいろ突っ込めそうです。