DEA(ジエタノールアミン)、TEA(トリエタノールアミン)の発がん性について

コメント欄で質問をいただいたので部分的に答えてみる。でも答えるのはとりあえず一部だけです。DEAとTEAについて。

MU 2008/08/22 17:43
はじめまして。こんにちは。
こちらの日記の方が新しかったのに…。以前の日記にコメントしてしまいました。消し方が分からな

いので二重投稿です。すみません。
私は業界(笑)のモノです。興味深く拝見いたしました。勉強になりました。都市伝説系は良くないな

あ、と私も思います。
一方で日本では化粧品などによく使われている、DEAやTEAがあります。
これについてはどう思われますか?
http://www.sciencedaily.com/releases/2006/08/060803182218.htm
また、シャンプーにもよく入っている、BHA、BHTなどは、IARC発癌性評価で3・ACGIH発癌性評価でA4です。
http://www.yakugai.gr.jp/inve/fileview.php?id=53
脂溶性で分子量も小さいですから、経皮吸収されやすいのでは?
例え毎日使っていても、こうしたものも代謝されるから大丈夫、なのでしょうか。

背景を説明しておくと、DEA(ジエタノールアミン)、TEA(トリエタノールアミン)をげっ歯類の皮膚に塗布すると、肝臓に発がんが見られた*1。また、縮合物についても同様の結果が見られた。たとえば、ヤシ油脂肪酸エタノールアミド=コカミドDEAなど*2。これは、DEAから発がん物質であるニトロソアミンが生成しているせいではないかと疑われた。
このへんのことは、「ジエタノールアミン ニトロソアミン」で検索したり、wikipediaでジエタノールアミンを検索するといろいろ書いてあるかと思います。このへんまでが基礎知識。


ここから日本語のウェブで書かれてないことを書いてみます。


マウスラットは人間に似ているところもあれば、似ていないところもあります。げっ歯類で見られた、DEAやTEAによる発がんは人間では起こりません。この発がんはニトロソアミンによるものではなくコリン欠乏によるものと考えられている*3のですが、人とは代謝量が異なること(コリンオキダーゼの活性は数百倍異なる)、人間の皮膚は厚く皮膚透過率が低いこと、コリン欠乏の変化は可逆的であることなどから人間ではリスクになりそうにありません。そのため、IARCでもGropu3(発がん性を分類できない)のままだし、NTPでもRoCのリストから外れました。
Wikipediaで書かれているようなマウスでの中枢神経発達阻害なども、コリン欠乏に由来するので人間では起こりえないものです。
一般に、動物での発がん性を人間に外挿する際にはMoA(Mode of Action:作用機序)を考慮する必要があります。


ただ、化粧品中でニトロソアミンが出来るのはやはりまずいので、配慮する必要があると思います。1991年-1992年のFDAの調査によると、最大3ppm*4が検出されたということでした。N-ニトロソジエタノールアミンのslope factorは2.8E+0/mg/kg/day*5で、この値と、たとえばシャンプーに2ppmのN-ニトロソジエタノールアミンが含まれていると仮定した数値を使用すると発がんリスクはだいたい1e-5(一生使い続けたときの発がんリスクが10万人に一人)になります*6
発がんリスクの管理方法として、一般に1e-5もしくは1e-6の発がんリスクが使用されていることを考えれば、これらのことから洗い流す製品であれば、それほど神経質になる発がんリスクでは無いと考えます。