(多種)化学物質過敏症 (Multiple Chemical Sensitivity; MCS) について

MCSは何かの化学物質に大量に曝露されたり、微量の繰り返し曝露によって発症されるとされる。その後、微量・(化学的に必ずしも関連のない)多種類の化学物質による暴露によって健康障害が引き起こされるとされる。症状は非常に多岐にわたって個人差があるとされるので、http://www.cssc.jp/cs.html#gを参照して下さい。
MCSが化学物質の持つ毒性により引き起こされるとする説得力のある証拠はない。


詳細は以下参照。
http://en.wikipedia.org/wiki/Multiple_chemical_sensitivity
http://members.jcom.home.ne.jp/natrom/CS.html
http://www.cssc.jp/


いくつかのレビューを簡単に紹介しますね。


Das-Munshi J, Rubin GJ, Wessely S.
Multiple chemical sensitivities: A systematic review of provocation studies.
(J Allergy Clin Immunol. 2006 Dec;118(6):1257-64.)
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/17137865


MCS:誘発研究の系統的レビュー

  • 37の研究が確認された。
  • ブラインド化はほとんどの研究で不十分。
  • においがわかるものは刺激に対して応答が出たが、においが閾値以下の場合や嗅角器マスキング剤を用いた場合では応答がでなかった。
  • MCS患者は化学物質による負荷に反応したが、しかしながらこれらの反応は、彼らが活性のある物質とにせの物質の差異を見分けることができるときにあらわれる。動作のメカニズムは化学物質自体に特有ではなく、期待と先入観に関係しているかもしれない。

http://www.jsaweb.jp/wao/wao0703.htmlの3番にも載ってますね。

訳者注(中略)今後は、過敏症としてアレルギー学者が扱う研究課題ではなく、心理学者、神経学者が扱う研究課題になるであろう。

とのことです。


Staudenmayer H, Binkley KE, Leznoff A, Phillips S.
Idiopathic environmental intolerance: Part 1: A causation analysis applying Bradford Hill's criteria to the toxicogenic theory.
(Toxicol Rev. 2003;22(4):235-46.)
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/15189046


本態性環境非寛容症(IEI):パート1:Bradford Hillの評価基準を毒性学の理論に適用する因果関係分析
(注:IEIはMCSの呼び方として提案されているものです)

  • この分析の結果はBradford Hillの評価基準の全てを満たさない。
  • IEIには毒性と因果関係があるという説得力のある証拠はない。仮定された生物学的プロセスとメカニズムは信じがたい。


Staudenmayer H, Binkley KE, Leznoff A, Phillips S.
Idiopathic environmental intolerance: Part 2: A causation analysis applying Bradford Hill's criteria to the psychogenic theory.
(Toxicol Rev. 2003;22(4):247-61.)
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/15189047


本態性環境非寛容症:パート2:Bradford Hillの評価基準を心因性の理論に適用する因果関係分析

  • 毒性学による理論と心因性の理論が提案されてるのでパート2では心因性の理論を扱う。
  • IEIは症状と障害の毒性の属性の支配観念によって特徴付けられた信念であり身体表現性障害と機能性身体症候群の診断基準を満たしている。
  • 神経生物学的特異体質(特にパニック障害)は引き起こされた反応に対するもっともらしいメカニズムである。


以下、私の個人的印象。


非常にごく微量の(化学的には多様な)化学物質が、多様な症状を引き起こすという臨床環境医学の主張には、懐疑的です。それよりは、心因性のほうが、もっともらしく思えます。
毒性学的にも、ちょっと考えられない。
野菜に残留してる農薬がわかるとか、pH調整剤で症状が出るとか、本当か?と思ってしまう。残留農薬ってppb単位だと思ったけど、これを感覚でわかるというのは本当にすごい。pH調整剤ってクエン酸塩とかリン酸塩とか?これで出るなんてちょっと信じられないのだが。dose-responseが無い時点で、科学的にはちょっとあやしいと思われてもしょうがないのではないか。環境ホルモンが騒がれたときも、結局、低用量効果は無かった。1940年にRandolphが言い出してから、ずいぶん経ってるのにまだ直接的な証拠が無いということは、よほど研究者がさぼってるか、そもそも(合成)化学物質がそんな症状を引き起こしてるのではないのか、もしくは、化学物質の毒性が関係しているが有意差が出ないほど影響が小さいかのどれかじゃないかと思う。