ビールは発がん性の飲料でその毒性はアフラトキシンの260倍以上

かなり出遅れてしまった感があるがアフラトキシンについて何か書いてみる。
最近かび毒であるアフラトキシンの記事をよく見かけるのだが、Wikipediaにはこんなふうに書いてある。

アフラトキシンは地上最強の天然発癌物質とされ、その毒性はダイオキシンの10倍以上といわれる(詳細はIARC発がん性リスク一覧参照)。

他にも、名古屋検疫所のページ*1にも同様のことが書いてある。

アフラトキシンB1の毒性:ダイオキシンの10倍以上

10倍以上・・って何ぞ。詳細はIARC発がん性リスク一覧参照・・・とか書いてあってもそこにはそんなことは何も書いないので困った。Wikipediaは出典不明な記述が多すぎて困る。ダイオキシンの毒性ってAhR(aromatic hydrocarbon receptor)を介して発現する*2のだけど、種によって毒性が8000倍以上違ったりする。8000倍に比べたら10倍なんて普通誤差範囲じゃね?とも思う。
そもそも、同じ用量で比較すれば、急性毒性も発がん性もダイオキシンのほうがおもいきり高いのである。どこから、「ダイオキシンの10倍以上」なんて与太話が出てきたのか全く不明であった。


そこで考えた。実は同じ用量で比較してるんじゃなくて、曝露量を掛け算してるんじゃね?と。実際の曝露量だと、ダイオキシンの発がんリスクよりも、アフラトキシンの発がんリスクが高くなる、そういう意味だろうと推測して資料を探してみた。だってそれくらいしか可能性が無いから。
Pesticide Residues in Food and Cancer Risk*3では、HERP (human exposure/rodent potency)という値を用いて発がん物質を評価している*4。ヒトでの平均暴露量を、げっ歯類で半数の発がんが見られる用量(TD50)を割って、その数値が高いほど発がんリスクが高いという考え方だ。このTable38.5によると、アフラトキシンのHERPは0.008、ダイオキシン(TCDD)のそれは0.0007で、アフラトキシンのほうが約10倍高い。つまり実際の暴露量ではアフラトキシンのほうがダイオキシンの約10倍のリスクになるのである。これで最初と話がつながった。


さて、実際の暴露量での発がんリスクをHERPで比較する、というルールであるなら、もっと発がんリスクが高いものがごろごろ存在する。たとえばビールのHERPは2.1(一日の平均摂取量257g、エタノール13.1mL)で、アフラトキシンの260倍以上、ダイオキシンの3000倍なのである。
つまり、えっアフラトキシンの毒性はダイオキシンの10倍以上?こわーいとか思ってたら、実は全然すごくなくてビール一杯のほうが危険なんである。食事から取るアフラトキシンの濃度が260倍になったときよりも、ビール中ジョッキ(350-500mLくらい?)を一日一杯飲むほうがよっぽど有害なのだ。


別にビールを貶めようとして書いてるんじゃなくて、アフラトキシンのリスクを考える上で参考になればと思って、ビール飲みながら書きました*5

*1:http://www.forth.go.jp/keneki/nagoya/AFLATOXIN.htm

*2:発がん性に関しても詳しい機構は不明だけどAhRが関与していると考えられている

*3:http://potency.berkeley.edu/pdfs/handbook.pesticide.toxicology.pdf

*4:あくまで、げっ歯類のデータをそのまま適用した一次スクリーニングであるのでその点に留意。

*5:ヒトのデータでも良かったんですけど、げっ歯類のデータが気に入ってる人がいたりとか、ネットではラットの発がん性がすげーーーとかなってるみたいなのでげっ歯類ベースで書いて見ました><

DEA(ジエタノールアミン)、TEA(トリエタノールアミン)の発がん性について

コメント欄で質問をいただいたので部分的に答えてみる。でも答えるのはとりあえず一部だけです。DEAとTEAについて。

MU 2008/08/22 17:43
はじめまして。こんにちは。
こちらの日記の方が新しかったのに…。以前の日記にコメントしてしまいました。消し方が分からな

いので二重投稿です。すみません。
私は業界(笑)のモノです。興味深く拝見いたしました。勉強になりました。都市伝説系は良くないな

あ、と私も思います。
一方で日本では化粧品などによく使われている、DEAやTEAがあります。
これについてはどう思われますか?
http://www.sciencedaily.com/releases/2006/08/060803182218.htm
また、シャンプーにもよく入っている、BHA、BHTなどは、IARC発癌性評価で3・ACGIH発癌性評価でA4です。
http://www.yakugai.gr.jp/inve/fileview.php?id=53
脂溶性で分子量も小さいですから、経皮吸収されやすいのでは?
例え毎日使っていても、こうしたものも代謝されるから大丈夫、なのでしょうか。

背景を説明しておくと、DEA(ジエタノールアミン)、TEA(トリエタノールアミン)をげっ歯類の皮膚に塗布すると、肝臓に発がんが見られた*1。また、縮合物についても同様の結果が見られた。たとえば、ヤシ油脂肪酸エタノールアミド=コカミドDEAなど*2。これは、DEAから発がん物質であるニトロソアミンが生成しているせいではないかと疑われた。
このへんのことは、「ジエタノールアミン ニトロソアミン」で検索したり、wikipediaでジエタノールアミンを検索するといろいろ書いてあるかと思います。このへんまでが基礎知識。


ここから日本語のウェブで書かれてないことを書いてみます。


マウスラットは人間に似ているところもあれば、似ていないところもあります。げっ歯類で見られた、DEAやTEAによる発がんは人間では起こりません。この発がんはニトロソアミンによるものではなくコリン欠乏によるものと考えられている*3のですが、人とは代謝量が異なること(コリンオキダーゼの活性は数百倍異なる)、人間の皮膚は厚く皮膚透過率が低いこと、コリン欠乏の変化は可逆的であることなどから人間ではリスクになりそうにありません。そのため、IARCでもGropu3(発がん性を分類できない)のままだし、NTPでもRoCのリストから外れました。
Wikipediaで書かれているようなマウスでの中枢神経発達阻害なども、コリン欠乏に由来するので人間では起こりえないものです。
一般に、動物での発がん性を人間に外挿する際にはMoA(Mode of Action:作用機序)を考慮する必要があります。


ただ、化粧品中でニトロソアミンが出来るのはやはりまずいので、配慮する必要があると思います。1991年-1992年のFDAの調査によると、最大3ppm*4が検出されたということでした。N-ニトロソジエタノールアミンのslope factorは2.8E+0/mg/kg/day*5で、この値と、たとえばシャンプーに2ppmのN-ニトロソジエタノールアミンが含まれていると仮定した数値を使用すると発がんリスクはだいたい1e-5(一生使い続けたときの発がんリスクが10万人に一人)になります*6
発がんリスクの管理方法として、一般に1e-5もしくは1e-6の発がんリスクが使用されていることを考えれば、これらのことから洗い流す製品であれば、それほど神経質になる発がんリスクでは無いと考えます。

シックハウスコラム掲示板が味わい深い件

シックハウスの住環境測定教会というNPOがあるのですが、そこのシックハウスコラム掲示板が非常に味わい深く、新しい発見でいっぱいで、毎日楽しみにしております。掲示板といいつつ、たぶん中の人が交代で短いコラムを投稿する、という趣のようです。異なる文体が混在しているので、中の人はおそらく二人以上です。というわけでいくつか紹介しますね。

6/29 化学物質と生命
生命体は天然エネルギーの連鎖によって変移したものであるがこのエネルギーの連鎖を見事に断ち切っていくのが人工的に造られた化学物質である。元素転換はもちろんもっと小さな天然エーテル体へのエネルギーの変移の連鎖を農薬や化学肥料、化学物質が総て断ち切り介入し負の連鎖を広げていく。100年以上前からこれらは多くの善良な科学者、研究者によって訴え続けられている。しかし悲観することも無いのはその解決の糸口である改善方法も善良なそれらの研究者から受け継がれ密かに引き続き伝承され維持されているからである。しかし地球のほとんどの大気、大地は人間の作り出した化学物質に汚染されそれらの最終到着地である人間の体も化学物質漬けになってほとんどの人々が昔には無かった感染症や細胞の変異による何らかの体調不良に侵されている。その傾向は若い人ほど多く生殖能力のない若者が工業国ほど異常に増えてきている現状にみてとれる。これらの問題はすぐに着手しなければ断ち切られた連鎖を自然は一定の時間で取り戻せるが人間はどこまで自然の連鎖に共鳴して造られた時点の遺伝子や染色体の状態に戻せるか見当がつかない。

元素転換とか、天然エーテル体とか、わくわくする用語がいっぱいです!!日本語もかなり不思議な感じがします。読点が少ないです。

6/15 マイナスイオンの効果と検証
マイナスイオンの効果と検証については科学者や医学会ではその効果についてなんの立証も無いので評価に値しないしそんなことを言う人は非科学的で信じることができないということをあからさまに言う人が少なくない。科学者がよく行き詰ると宗教に走るのは自分に限界を感じたときが多いとされるが化学で解からないことの方が多いので落胆する必要も無い。人間はミトコンドリアや魂で感性と想像力で本質を感じ取る力がある。これは顕在的な化学の数倍の能力である。化学よりも人間の潜在的な感性のほうが本物である。幾多の例でマイナスイオンの力は推定できる。ゼーター電位は動植物の中で生命維持に必要な役割を果たす。適切な食物や高い電位を帯びたコロイド状の水を飲めば細胞も血液もくっつきあわずに分離した状態を維持できる。我々の細胞は死んでは新しいものを生産している。物質はどんどん死滅していくのにそれを動かしているのは一体何かを感がえる必要がある。テレビが電波で動いているその電波を形にして見せなさいと信じられないというのが今の化学であるように思われる。

「人間はミトコンドリアや魂で感性と想像力で本質を感じ取る力がある。」よくわかりませんが力強いお言葉です。あと、高い電位を帯びたコロイド状の水って何でしょうか。水をエアロゾルにでもして吸うんでしょうか。

6/5 水の結晶体に対する地球の速度による影響
地球の螺旋軌道の速度は3月に最大9月に最小になるといわれ、これらのエネルギーは水の液晶に吸収されるとその結晶に影響を及ぼし高次の秩序をもたらすことが説かれている。

6/14 水の記憶
免疫組織内の抗体はそれらが入っている溶液が非常に薄められて抗体分子がもはや一つも残っていない液になってさえも機能を発揮できるという。「これは薬を波動によって水に転写すると同じような作用が起こるのに似ている。また宇宙のエネルギー、波動、電位が水に一定のエネルギーを共鳴し続けるのに相似の現象である。」と思われる。水のこのような不思議なエネルギーは空気中でも生物の中で休むことなく行われ続けている。このようなことを考えてみると私感ではあるが宇宙のエネルギーを総て転写できるこの水の性質が地球の中の総てに宇宙と相似の現象を起こしているように思われる。

1988年にNatureに載ったというホメオパシーの話を思い起こさせますが、どうやら水はそれだけではなくて宇宙のエネルギー(地球の螺旋軌道?波動?)も転写できるそうです。水って不思議ですね。

6/10 インカ帝国太陽神殿に応用された石工技術
インカ帝国太陽神殿に応用された石工技術は極めて精巧である。壁に組み込まれた石は小さいもので10−20トン大きいものになると300トンもあるといわれておりその隙間はナイフさえ通らないぐらい精巧さを持った工学技術である。そのヒントとして最も重要なポイントが彼らの加工技術の工程にある。彼らは石を加工する前にある種の薬草の汁を用いて石をやわらかくしたといわれている。これが生命力学の中に潜む宇宙力を持つ微細なものによるエネルギーのなせる業である。

薬草で石をやわらかくしてるなんてすごいオーバーテクノロジーです。現代文明よりすすんでるかもしれません。

5/19 波動理論
1943年波動理論により全宇宙物質は回転運動をしていることが明らかにされた。宇宙の渦巻き運動は万有のマトリックスの基本構造に一致しているといわれる。宇宙と総てが相似象であるということは銀河系の星雲や細胞を守る水、電子の回転運動の現れる。水は地球上のいたるところで渦巻運動を起こす。回転運動が早まると水の分子は分離し始め蒸気となり放電が起こる。これが生命の源である。

ドリームキャストは波動理論に則っていたわけですね。あの模様にそんな秘密があったなんて。

マラリアコントロールのための、殺虫剤処理した蚊帳の配布に反対する団体の主張について

洞爺湖サミットで、アフリカでのマラリアコントロールのために、殺虫剤処理した蚊帳を一億帳配布することが決まりました。そのこと自体は素晴らしいことだと思います。
でも反対する団体がいます。

http://www.npo-supa.com/active/noyaku.html

この農薬蚊帳の配布反対には大きく二つの下記理由がある。
=(1)=
この蚊帳に練り込まれている農薬「ペルメトリン」には、発がん性の恐れがあるむねアメリカの科学アカデミーが指摘している。蚊帳利用者の健康を阻害する可能性が極めて高いことを裏付けている。
農薬の危険性の論議の前に指摘したいのは「蚊帳に農薬が必要かどうか」である。蚊帳には元来蚊を内部に侵入させない機能が備わっているため、糸に農薬を練りこむ必要がないことは、サパのギニアでの活動が立証している。
=(2)=
サパは、ギニア産蚊帳を農民中心に配布しているが、1張り当たりのコストは約200円前後である。農薬蚊帳1張りに対し3倍以上の数量配布ができることになる。マラリアの予防に蚊帳は有効であるが、利用者の健康を阻害し、コストの嵩む農薬蚊帳は不要で且つ、税金の無駄使いと言わざるを得ない。

http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/tsuushin/tsuushin_08/pico_118.html#118-3

 私自身が関わりのある分野で、日本政府が「見当違い」のアフリカ援助策を打ち出している事例の一つは、「マラリアからアフリカの子どもたちを救おう!」という極めて「人道的な」ユニセフのキャンペーンのもとで、住友化学が提案した殺虫剤ペルメトリン入りの蚊帳を普及させようとしていることである。

 2003−2004年にタンザニアのアルーシャでこの蚊帳の生産が始まり、さらに日本政府が国際協力銀行を通じて5億円近い融資を行なって第二工場が建設され、量産が始まった。こうして量産された農薬入りの蚊帳は、JICAやユニセフを通してウガンダエチオピアスーダンなどアフリカ24カ国で普及が図られていった。日本政府は、JICAやユニセフがひと張りあたり5〜8ドル*でこの蚊帳を買い取るにあたって、2003年から2006年の間にJICA には430万ドル(約4億8千万円)、ユニセフには2835万ドル(約31億円)を無償資金協力・技術協力という形で拠出したのであった。実際、国によっては、この蚊帳はひと張り7ドルで売られているが、野澤氏の話では、農村の貧しい農民が簡単に買える値段ではないという。SUPAが普及を図っている普通の蚊帳なら、2ドルでできるので、より貧しい人々が入手できるし、日本政府がODAを使って普通の蚊帳の普及を図れば、三倍以上の人々が、安全な蚊帳によってマラリアから身を守られることになるのである。

 2006年には、こともあろうに朝日新聞社が、「ユニセフと協力して、多くのアフリカの子どもたちをマラリヤから救った」功績を認めて、「企業の社会貢献」として農薬入り蚊帳の開発をした住友化学を表彰するに至り、「普通の蚊帳」の普及を主張する我々の代案は完全に黙殺される状況となった。

http://www.kokumin-kaigi.org/kokumin03_51_03.html

日本政府は、合成ピレスロイドペルメトリンを練りこんだポリエチレン繊維で蚊帳を作った住友化学の提案に乗って、ユニセフの「マラリヤ撲滅作戦」の一環として、アフリカでこの蚊帳の普及に乗り出しているが、ペルメトリンは、乳幼児の脳の発達を阻害する可能性があると、富山医科薬科大の津田らによって報告された論文7)を引用して、黒田洋一郎氏は警告している。蚊帳に付けられている「触れたら、手を洗うように!」という注意書きはアフリカの現実の中で意味をなさない。農薬入りでない普通の蚊帳の普及にこそ、日本の国際協力の予算が用いられるべきであり、農薬汚染の輸入食品による中毒の再発を防ぐためには、日本の食糧自給率を上げると共に、中国を含めたアジア・アフリカなどの諸国に、農薬に依存しない有機農業の普及という面で、日本の国際協力が行われるべきであろう8)。

JANJANにも何か載ってました。「蚊帳に農薬はいらない」http://www.news.janjan.jp/world/0610/0610180985/1.php


どうやら、田坂興亜という人は化学の専門家らしいですが、毒性学にはついては素人のようです*1


彼らの主張について検証してみます。
普通の蚊帳ならたくさん配布できるということですが、普通の蚊帳ではほとんど効果がありません。殺虫剤処理した蚊帳を用いるからこそ効果があるんです。*2 効果のないものをいくら配布できてもしょうがありません。


発がん性については、IARCはGroup3に分類しています。発がん性の証拠が不十分、あるいはほとんど無いものがGroup3に分類されます。また、遺伝毒性が認められないので発がん性があるとしても閾値が存在します。
http://www.news.janjan.jp/world/0610/0610180985/1.php

更に、アメリカの科学アカデミーは、「ペルメトリン」に発ガン性の恐れありと指摘している。このデータは、国連WHO内の「国際ガン研究機構」(IARC)で発表されており、ガン発症リスクの大きさでは、「4.21×10−4」となっている。つまり10万人に42人の発症リスクがあるとしている。

アメリカの科学アカデミーか何か知りませんが、「4.21×10−4」はNational Research Councilのデータです。これはTDI(耐容一日摂取量)の限界まで一生涯摂取つづけた際の発がんリスクであるので、曝露シナリオが違いすぎて比較になりません。他の評価、たとえばペルメトリン処理したカーペットを使用した場合などでは2.9E-06です。


あとは、「乳幼児の脳の発達を阻害する可能性」ということですが。これは動物細胞での試験をもとにしています。この試験結果が懸念にならない理由をあげてみます。

  • ヒトと動物は違う。
  • 動物個体と細胞は違う。個体にはADME(吸収・分布・代謝・排泄)の機能があるが細胞には無い。
  • ペルメトリン動物実験で急速に代謝され排泄されることが知られている。
  • 細胞の試験といっても遺伝子発現を見ただけ。
  • 細胞での試験は、評価の定まっている試験でさえもヒトには適用できなことも多い。評価系が妥当かどうかすらわからない試験系でリスクを論じることなどできない。
  • 試験結果をそのまま適用してもTDIの百倍以上を摂取しないと体内で影響が出る濃度にはならず、リスクになりそうにない。
  • 動物試験において、遅発性神経毒性や、幼若ラットに曝露させた場合の行動評価などにおいても懸念となる毒性は見られない。


彼らの主張はどれも怪しくて、ほとんどいいがかりに近いように思えるんです。
・・こういう団体は化学物質嫌いで大企業が嫌いなだけなんじゃないのかな。
気が向いたら書き足します。

*1:http://www.kokumin-kaigi.org/kokumin03_51_03.html より抜粋「LD50は、実験動物のラットに餌に混ぜて与えたとき、48時間以内に半数が死ぬ量。」正解は、LD50は絶食状態のげっ歯類に強制経口投与を行ったときに48時間以内に半数が死ぬ量です。餌に混ぜて行う急性毒性試験なんて聞いたことありません。

*2:http://rbm.who.int/partnership/wg/wg_itn/docs/Cochrane_reviewITNs2004.pdf

タルクの発がん性の話。経皮吸収するわけないだろ常考。

経皮毒ついでに書いてみます。
ベビーパウダーに含まれるタルクが経皮吸収されるみたいな書き方をしてるところ*1もありますが、タルクは経皮吸収されません。ナノ粒子でさえ、皮膚透過しない*2と言われているのに。それにタルクは板状をしていて、その形状が滑らかさを生む一つの要素となっているので、微細化して滑らかさを損なうなんてことは普通しないので、ベビーパウダーに使用するようなタルクは大きなサイズのままです。
タルクの発がん性はいろんなサイトで断片的に語られてますが、IARCが評価しているのが一番まとまってるのでその要約部分*3の日本語訳を載せときますね。
結論から言えば、ボディーパウダーの会陰部への使用と卵巣がんを結びつける研究はあるけれども、リコールバイアス(もし女性が卵巣がんを持っていたら、ボディーパウダーの使用を報告しすぎる)の影響があるかもしれない。さらには1970年代半ば以前のボディーパウダーにはアスベストを含むものがあった。リコールバイアスを受けない前向きコホート研究では、その関係は支持されない。ということでしょうか。

タルクは鉱物タルクと、鉱物タルク35%〜95%以上を含む工業製品を指す。鉱物タルクは自然には平らな形をとるが、一般には、たとえば石英アスベストのようなアスベスト様繊維と関連している。アスベスト様タルクはアスベストを含むタルクと混同されるべきではない。タルクは農産物、セラミック、化粧品、塗料、コーティング、紙、製薬、プラスチック、屋根用の材料、ゴム、廃棄物処理に利用される。職業暴露は採掘、製粉、工業用途で生じる。消費者への曝露はタルクベースのパウダーの使用、たとえばベビーパウダーやボディーパウダーの女性の会陰部や性器への使用によって生じる。

様々な国でタルクの鉱山労働者、製粉労働者に対するコホート研究が評価のために利用可能である。米国の鉱山労働者では、肺がんの過剰リスクに注意されたが、このリスクはラドン石英によるものかもしれない。他のコホート研究はがんの増加を報告していない。フランスとオーストリアでのネスティド・ケース・コントロール研究ではタルク粉塵の累積曝露による肺がんの高いリスクは見られない。ノルウェーのパルプと製紙産業で働く女性の研究では卵巣がんのリスク増加に注意されたが、これはアスベスト暴露の結果と考えられた。ワーキンググループは疫学研究がアスベスト繊維を含まない吸入されたタルクの発がん性の不十分な証拠を提供したと結論した。

タルクはラット、マウス、ハムスターで様々な投与経路で試験された。長期吸入試験は雌雄で肺胞と細気管支がん、副腎の褐色細胞腫の増加を示した。この増加は動物での発がん性の限定的な証拠を提供した。ワーキンググループはアスベストを含まないかアスベスト様繊維を含まないタルクの吸入はその発がん性が分類できない(グループ3)と結論した。

タルクベースのボディーパウダーと卵巣がんのリスクの関係について、前向きコホート研究と19のケースコントロール研究の疫学のデータに特に注意が向けられた。コホート研究ではその関係を支持しないが、ケースコントロール研究では高度な一貫性を示した。8つの研究では30-60%のリスク増加を示し、他の研究も同様の相対リスクを示した。二つの研究のみ、最も高暴露の女性が最も高いリスクであることを示唆した。ケースコントロール研究は、もし女性が卵巣がんをもっていたらボディーパウダーの使用を報告しすぎるというリコールバイアスの影響を受けているかもしれない。一般に、これらの粉は石英を含んでいる。さらに低濃度のアスベストが、1970年代半ば以前のボディーパウダーにときおり存在するが、報告された利用可能な情報は少なく、繊維特定の分析はしばしば不十分であった。バイアスと交絡因子の慎重な評価の後に、疫学研究によるタルクベースのボディーパウダーの会陰部使用の発がん性の限定的な証拠があるとワーキンググループは結論し、ひとに対して発がん性があるかもしれない(グループ2B)と分類した。

*1:ttp://www.keihidoku.com/archives/50672204.html

*2:Skin Pharmacology and Physiology, Volume 21, Number 3, 2008, Nanotechnology, Cosmetics and the Skin: Is there a Health Risk? G.J. Nohynek, E.K. Dufour, M.S. Roberts

*3:Lancet Oncologyに載ってました。モノグラフはまだ出てません。

経皮毒についていくつか補足(追記)

・皮膚刺激やアレルギーについて
皮膚に適用する日用品で、皮膚刺激やアレルギーは出ることもあります。しかし、皮膚や子宮に蓄積して毒性を発揮するというのはちょっと考えられません。そういう難分解性・高蓄積性のものは化審法でも規制されてますし、蓄積性が高いと予想される脂溶性のほとんどの成分は動物、一部ではヒトでの体内動態等がチェックされていて、通常の使用では健康リスクにならないことが確認されています。


・バキュームストリッピング
ニューウェイズ関連でよく語られる用語ですが、有害物質を何でも除去できる魔法の技術ではないし、ベンゼンを取り除いてるわけでもありません。バキュームストリッピングそのものは存在します。ある種の*1界面活性剤を製造するときに、副生成物として生成する1,4-ジオキサンを、減圧にして除去する工程であって、FDAのサイトにも乗せる*2くらい有名なものです。界面活性剤の製造工程で「バキュームストリッピング」と言ったら、通常これを指します。バキュームストリッピング自体たいした技術でもないですし、追加コストもほとんどかからないとされています。
1,4-ジオキサンは動物での発がん性が確認されていますが、炎症に関連して生じる発がんとされていて、閾値のある発がん性物質(ある濃度以下では影響がない)なのでたとえ微量含まれていたとしても問題ないんです。発がん性だからといって何でも危険なわけではありません。


ステロイドの経皮吸収率はどれくらいか。
投与量は1.6μg/cm2, アセトン20μLに溶解させて適用。24h後に洗浄した場合。
ヒドロコルチゾンは2%、エストラジオールは11%、テストステロンは13%*3

ステロイド脂溶性であって、比較的吸収率は良いのですが、24時間で10%程度です。

*1:エチレンオキサイドを原料に使うような界面活性剤です

*2:http://www.cfsan.fda.gov/~dms/cosdiox.html

*3:Rober L. Bronaugh et al.,Topical Absorption Dermatological Products: Marcel Dekker,2002: 15 より抜粋

松煙

環境サヨクウォッチング。ダイオキシン環境ホルモン対策会議のニュースレター 第49号から*1

家具、家屋には、様々な化学合成の塗料、防水剤、防腐剤が使われている。なかには、シックハウスやアレルギー、癌の原因になるものもあるといわれている。一方、松煙、柿渋、ニカワなどの自然素材を用いた防水・防腐効果のある塗料も、ほんの半世紀ほど前には盛んに使われていた。それらは、シックハウスや発がん性と無縁だった。

発がん性と無縁だったって本当か?「松煙」は、松の根を燃やしてつくった煤なのだけれど。まず、木材のほこりには発がん性がある*2と評価されているし、木材の抽出物にも変異原性が確認されているので何か残ってたら発がん性あるかもね。そして、煤だけど、煤は1920年代にロンドンの煙突掃除の人が陰嚢がんにかかる原因物質とされた由緒ある発癌物質である多環芳香族炭化水素(PAH)を含んでいます。そして、煤の主体であるカーボンブラックも発がん性があるかもしれない*3とされています。


で、どうして発がん性と無縁だったと言えるのか。曝露量はおそらく少ないだろうけど、PAHは揮発するんだが。全ての松煙についてPAH含有量を測定でもしてるの?してなければ、「発がん性と無縁」なんて言えないと思うのだが。自然由来のものは安全だと思い込みたいだけじゃないか。

*1:http://www.kokumin-kaigi.org/kokumin03_50_07.html

*2:IARCではgroup1,発がん性がある

*3:IARCの評価でgroup2B